息子を幼稚園に送りに行ったあと、娘と自転車道を歩いていました。
その自転車道の両脇には背の高い木が生えていて、夏の暑い日にはその木陰に入るとすこし涼しさを感じることができます。
冬は葉が落ち、枝だけになりますが、その寒々しい風景もまた悪くありません。
さびしさを感じることはむしろ、大勢の人の集団が苦手なわたしにとっては心が落ち着く瞬間でもあり、ぜいたくなひとときだと感じたりもします。
その自転車道を近くの保育園の先生とこどもたちがお散歩していました。
外にでるのがうれしくてはしゃぐ園児たち。
先生たちも外のひんやりした空気を吸い込みながら気持ちが良さそうです。
ちいさな横断歩道にさしかかり、先生が大きな声で指示を出します。
「赤ですよ〜〜〜。◯◯ちゃん止まってくださーーい!」
そのときのことです。
横断歩道の向こうから、見るからにガラの悪そうな高校生の男の子が歩いてきました。
体中にエネルギーがみなぎっていて、でもその発散の仕方がわからず抱え込み、すべてに対してイライラしている。そんな様子の高校生です。
そのちいさな横断歩道は、いちおう信号こそありますが、朝のラッシュが過ぎるころには人影もなく、通る車もほとんどなくなります。
そもそも長さにして2〜3メートルしかない短い横断歩道なのです。
悪そうな高校生は、信号なんておかまいなしに、歩くスピードをゆるめることもせず横断歩道を渡ろうとしました。
が、不機嫌そうな顔で急に足を止めました。
「?」
端で見ていたわたしは、あれ、どうかしたのかな? と不思議に感じて、悪そうな高校生の視線の先を追ってみました。
その視線の先には園児たちの姿がありました。
まさか、とは思いましたが、どうやらそのようなのです。
むじゃきな園児たちの手前、交通ルールを破り、赤信号で堂々と横断歩道をわたることができなかったようなのです。
見るからに悪そうな高校生が、人ひとり、車一台通らないちっちゃな横断歩道で信号が青になるのを待っている……
わたしは
「あぁ。いい子だなあ」
そう思い、その悪そうな高校生のことがなんだか愛おしくなってしまいました。
街を歩けば、知ったような顔をした大人がスマホ片手に仕事の話をしながら我が物顔で横を通り過ぎていきます。
朝のラッシュの電車では、黄色い帽子をかぶった小学生のランドセルに対して「チッ」と舌打ちをするビジネスマンを見かけたこともあります。
こんな大人たちに囲まれて育つこどもたち。
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あの悪そうな高校生のお母さんは、知ってるのかな。
保育園児の目を気にして交通ルールを守っちゃう息子の姿。
あの悪そうな高校生の担任の先生は知ってるのかな。
不機嫌そうな顔しながらも、誰も来ない横断歩道で青を待つ生徒の姿。
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ふだん目にするその人の姿だけが、その人のすべてじゃない。
このことをほんとうの意味で知っている大人はどれくらいいるだろう。
悪そうな高校生の男の子を見て、ふとそんなことを考えました。
そしてその男の子に対しては
「そのままでいけよーーーーーーーーー!」
と、今、祈るような気持ちでいるのです。