こんにちは。歯科衛生士のナカタ コマチです。
ケガや病気をしても、3割負担でお医者さんに診てもらえる。(小さい子どもや高齢者はさらに低い自己負担で可能だったりもします)
この日本の健康保険制度ってほんとうに優れたシステムだと思います。
ですが近年、自己負担以外の公費での負担部分、つまり国の財政面からみた「医療費」の増大が問題になっていますよね。
じつはこの医療費の増大に歯止めをかけようと、厚生労働省はさまざまなルールをつくっています。
そしてその中には医療の質の低下や患者さんにとっての不利益につながってしまうようなルールもあったりするんです。
「保険診療」=「標準的なレベルを保証する治療」ではない
これ、衝撃的かもしれませんがそのとおりなのです。
現在の歯科における保険診療は、厚労省が定めた診療報酬体系のこまかいルールで「がんじがらめ」といってもいい状態です。
このせいで歯科医院側にとっても、患者さん側にとっても、合理的でない制度がたくさんあるんです。
非合理的なルールのひとつ目に、保険が適用される治療の範囲があります。
「予防」には保険が適用されない
どこかで耳にしたことがある方も多いかもしれませんが、現在の保険制度では「病名のつく疾患があり、それに対して治療や検査をした場合」に保険から医療費がまかなわれるシステムになっています。
具体的に言うと、
「歯周病」などの病名のつく病気があってそれを「治療した」ことに対して保険が適用されるということです。
この制度の問題点は、
いい歯科医が診察し「この歯はいま抜かなくても、しっかりケアすれば数年はじゅうぶん保つ」と誠実に診断した場合には保険制度からは「検査代」しか支払われないけれど
未熟な歯科医が「これは抜歯したほうが安全だ」と診断して歯を抜いた後、さらに入れ歯やブリッジなどを装着すると「検査代」+「抜歯の処置代」+「入れ歯等の代金」が、医療費から歯科医に振り込まれるということです。(もちろん患者さんの自己負担も増えます)
当然ですが、歯はできるだけ抜かず、長く使うことが大切です。
なので少々の疾患があっても、それを歯科医の経験や技術でうまく長持ちさせることが、患者さんにとっても大きなメリットになるのですが
現行の保険制度では、この姿勢を評価するシステムが存在しませんので、すぐに歯を抜いてしまうような未熟な歯科医のほうが多くお金を稼げる、という矛盾をはらんでいるんです。
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歯科医の技術の高さが医療費に反映されない
これは診療報酬が「出来高払い」制度を採用していることから生まれる問題点です。
つまり、「同じ病名」かつ「同じ治療方法」で診察した場合、どんなに治療の技術に差があっても報酬はまったく同じということです。
さらに、最新の技術をとりいれ、高額な機械を使用して治療した場合であっても、保険診療の範囲内である限りこの原則が適用されてしまうんです。
患者として歯科医院に通うことを考えたとき、できるだけ最新の機器に精通した、腕のいい歯医者さんに治療してほしいと、当然思いますよね。
ですがこの出来高払いの原則によって、歯科医側に「治療の精度をあげよう」「いい機械でよりよい治療を提供しよう」というモチベーションが生まれにくいといった、残念な現状があるんです。。。
「混合診療」が禁止されている
混合診療とは「保険診療」と「自由診療(自費診療)」を併用することはできないという原則です。
本来は、
- できる限り費用の負担が少ない保険診療で治療をすすめながら
- ココはどうしても!という部分については自費による診療をおこなう
といった合理的な治療を受けられることが望ましいのですが、これが禁止されているということです。
もちろん混合診療にも問題があったりするので(悪徳な医者が過大な治療費を請求できてしまう可能性があるなど)
一概に「保険診療の禁止」が悪だ、と決めつけることはできないのですが、一部の悪質な医師のせいで多くの良心的な医師の行動が制限されている、ひいては患者側からみても合理的な診療を受けられない状態となっているというジレンマが生じています。
さいごに
- 「予防」に対するインセンティブがない
- 技術の差が報酬に結びつかない
などの保険制度の矛盾をかかえた歯科医師の中には、自分の医院の診療を「自由診療」へと切り替えて、ひとりの患者さんとじっくり向きあうスタイルの経営をおこなう方も増えています。
保険診療のみでは、「保険内でできること」だけしか行えず、でも医院を運営するためにはある程度の報酬が必要ですから「予約をギチギチに埋めて、できるだけたくさんの患者さんをさばく」といった方針にならざるをえない厳しい現状があるからです。
かならずしも自由診療をおこなっている歯科医院が「予防に対する意識が高い」「最良の医療技術・器具をもっている」とは言えないのでむずかしいところですが
少なくとも、長い目で見たときには保険診療だけでは十分な治療が受けられない可能性があるということを理解しておき、
じっさいの治療の段階では「自費での診療」のメリットにも目を向けたうえで、ご自分の治療方法を選択していただければと思います。
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